
背筋の自重トレーニング種目として基本となる懸垂のフォームややり方のコツを解説するとともに、効果のある筋肉部位別に40種類のバリエーションもご紹介します。
懸垂が効果のある筋肉部位
各筋肉の構造や作用および起始停止・支配神経に関しては下記の専門サイトおよび学術文献を参照しています。

Skeletal Muscle: A Brief Review of Structure and Function(PDF)
広背筋の英語名称・構造・部位詳細・起始停止

読みかた:こうはいきん
英語名称:latissimus dorsi muscle
部位詳細:上部|下部
起始:下位第6胸椎~第5腰椎の棘突起・肩甲骨下角第9~12肋骨|正中仙骨稜・腸骨稜後方
停止:上腕骨小結節稜
僧帽筋の英語名称・構造・部位詳細・起始停止

読みかた:そうぼうきん
英語名称:trapezius muscle
部位詳細:上部|中部|下部
起始:後頭骨上項線・外後頭隆起・頚椎棘突起|第7頚椎・第1~3胸椎棘突起|第4~12胸椎棘突起
停止:肩甲棘・肩峰
上腕二頭筋の英語名称・構造・部位詳細・起始停止

読みかた:じょうわんにとうきん
英語名称:biceps
部位詳細:長頭|短頭
起始:肩甲骨関節上結節|肩甲骨烏口突起先端
停止:橈骨粗面
懸垂は背筋(僧帽筋・広背筋)を中心として、上腕二頭筋にも効果がありほか、二次的に前腕筋群に対しても有効です。
また、グリップの仕方により効果のある筋肉部位が変化します。
懸垂を英語で言うと何?
チンニングは和製英語

日本では、懸垂=「チンニング」と言われ、それが英語圏での表現のように誤解されていますが、これはあくまで和製英語です。
英語では懸垂のことを2種類に区別して呼称します。それは、以下の通りです。
○順手懸垂:Pull-up(プルアップ)
○逆手懸垂:Chin-up(チンアップ)
広背筋に効果のある順手懸垂
バーより上に顎を出すのではなくバーに胸をつけにいく
広背筋に効果のある懸垂のバリエーションが順手懸垂です。チンニングと呼ばれることもありますが、英語圏では順手懸垂はプルアップと呼ぶのが普通です。懸垂と言えば、ついバーより上に顎を出すことにこだわりがちですが、顎を出すイメージが強すぎると、背中が丸まったフォームになり十分に背筋群を収縮させることができず、腕にばかり負荷がかかってしまいます。
肩甲骨を寄せながら胸を張り、胸をバーにつけにいくのが正しいフォームです。
懸垂をするためにはどうしても懸垂ラックなどの器具が必要になりますが、最近は自宅のドア部分などに簡易的に取り外しができる器具があり、とても便利です。
僧帽筋に効果のあるパラレル懸垂
パラレルケーブルアタッチメントで流用も可能

僧帽筋に効果のある懸垂のバリエーションが、両手を狭めて平行にグリップするパラレル懸垂です。フォームは順手懸垂とほぼ同様です。

なお、パラレルグリップが付属していない懸垂器具では、こちらのようなパラレルタイプのケーブルアタッチメントをストレートバーに引っ掛けることで流用できます。
上腕二頭筋に効果のある逆手懸垂
あえて肩甲骨を寄せないのがポイント

上腕二頭筋に効果のある懸垂のバリエーションが逆手懸垂で、チンニングまたはチンアップとも呼ばれます。
通常の懸垂と違い、やや背中を丸めて動作することで上腕二頭筋に負荷を集中させることが可能です。
低強度の斜め懸垂
懸垂ができない人はここからスタート

懸垂ができない、という方にまずおすすめしたいのが、懸垂より強度の低い斜め懸垂です。
フォームのコツやポイントは通常の懸垂と同様で、胸を張り肩甲骨を寄せるイメージで動作を行ってください。
机を流用した斜め懸垂
自宅で簡単に行える斜め懸垂

自宅に懸垂器具を設置できない場合は、机を流用した斜め懸垂で背筋を鍛えることもできます。
机を流用した逆手斜め懸垂
足を台に乗せると強度調整も可能
また、こちらの動画ように机を使った斜め懸垂は数多くのやり方がありますが、机に対する身体の向きを変えることで、逆手斜め懸垂を行ったり、工夫次第でさまざまな強度の上げ方が可能です。
自宅のドアとシーツを使う低強度斜め懸垂
筋力に自身のない女性も懸垂効果を得られる

机を使った斜め懸垂でも、行うのが難しいという女性の方などにおすすめなのが、こちらのようなドアにシーツを挟んで行う低強度の斜め懸垂です。このやり方だと、ご自身の体力・筋力に適した角度で斜め懸垂の効果を得ることが可能です。
高強度懸垂の種類とやり方
クライマー懸垂
ロッククライミング・フリークライマーが背筋力の練習として行うことから、クライマー懸垂とも呼ばれる懸垂バリエーションです。
ダイノプルアップ
ダイノプルアップは、二段になった懸垂バーを飛び移りながら行う順手懸垂で、かなりの前腕筋力が要求されます。
動画は当ジム所属のU21アームレスリング全日本チャンピオンが、実際に当ジムの二段懸垂バーで、首の重りを巻いて行った超高負荷ダイノプルアップです。
マッスルアップ

懸垂動作から、身体をバーの上まで押し上げる、かなり難易度・強度の高い懸垂バリエーションがマッスルアップで、筋力だけでなく、重心移動や反動などテクニックも必要な種類です。
片手懸垂

純粋に筋力的に最高難易度の懸垂が片手懸垂です。できるようになるためには、厳しい筋力トレーニングと体重管理が必要です。
35種類の懸垂バリエーション
最後に35種類もの懸垂バリエーションを実際に行ない、紹介している世界的にも有名な懸垂動画をご紹介しておきます。是非チャレンジしてみてください。
なお、こちらの動画に収録されている懸垂バリエーションは以下の通りです。
ワイドグリッププルアップ
手幅の広い順手懸垂
クローズグリッププルアップ
手幅の狭い順手懸垂
ミディアムグリッププルアップ
通常手幅の順手懸垂
クローズグリップチンアップ
手幅の狭い逆手懸垂
ワイドグリップチンアップ
手幅の広い逆手懸垂
ミメディアムグリップチンアップ
通常手幅の逆手懸垂
タックエルワイドグリップチンアップ
膝を曲げて行う手幅の広い逆手懸垂
タックエルミディアムグリップチンアップ
膝を曲げて行う通常手幅の逆手懸垂
タックエルクローズグリップチンアップ
膝を曲げて行う手幅の狭い逆手懸垂
タックエルミディアムグリッププルアップ
膝を曲げて行う通常手幅の順手懸垂
タックエルクローズグリッププルアップ
膝を曲げて行う手幅の狭い順手懸垂
タックエルワイドグリッププルアップ
膝を曲げて行う手幅の広い順手懸垂
エルシットワイドグリッププルアップ
足を前方に伸ばして行う手幅の広い足順手懸垂
エルシットクローズグリッププルアップ
足を前方に伸ばして行う手幅の狭い順手懸垂
エルシットメディアムグリッププルアップ
足を前方に伸ばして行う通常手幅の順手懸垂
エルシットワイドグリップチンアップ
足を前方に伸ばして行う手幅の広い逆手逆手懸垂
エルシットクローズグリップチンアップ
足を前方に伸ばして行う手幅の狭い逆手懸垂
エルシットメディアムグリップチンアップ
足を前方に伸ばして行う通常手幅の逆手懸垂
オルタネイトグリッププルアップ
手を交互にグリップする懸垂
エクスプローシブプルアップ
素早い反復動作で行う順手懸垂
エクスプローシブチンナップ
素早い反復動作で行う逆手懸垂
インバーテッドエルプルアップ
足を上方に伸ばして行う順手懸垂
タックフロントレバープルアップ
曲げた膝を上方に上げて行う順手懸垂
タックフロントレバーチンアップ
曲げた膝を上方に上げて行う逆手懸垂
スキャプラプルアップ
身体を下ろした位置で一度停止する順手懸垂
スキャプラチンナップ
身体を下ろした位置で一度停止する逆手懸垂
アーチャープルアップ
左右交互に斜めに行う順手懸垂
アーチャーチンナップ
左右交互に斜めに行う逆手懸垂
タイプライタープルアップ
左右に身体をスライドさせる順手懸垂
タンデムグリッププルアップ
手を縦に交互にグリップした懸垂
プルアップアイソメトリック
身体を引き上げた位置で静止する順手懸垂
チンアップアイソメトリック
身体を引き上げた位置で静止する逆手懸垂
ダイノプルアップ
二段バーで行う順手懸垂
ワンアームチンアップエキセントリック
片腕で耐えながら下りる順手懸垂
ワンアームチンアップアイソメトリック
片腕で耐えながら下りる逆手懸垂

当サイト執筆者は、運営しているクラブチームジム「FutamiTC」で日常的にトレーニング指導を行っており、本記事の内容も実際の指導現場で得た経験をもとにフォームのポイントやアドバイス点をまとめています。
ジムトレーナーとしての実際の指導ポイント
トレーニング動作と首の連動性

トレーニングフォーム全般において重要となるのは、実施する種目の動作と首の位置関係を適切に保つことです。特に、身体の前側の筋群(大胸筋・三角筋・上腕三頭筋・大腿四頭筋など)を収縮させる局面では、動作フィニッシュで軽く顎を引き、首を安定させることが有効です。
一方で、身体の後ろ側の筋群(広背筋・僧帽筋・上腕二頭筋・脊柱起立筋・ハムストリングスなど)を収縮させる局面では、動作フィニッシュで首の位置をわずかに後方へ誘導し、顎の角度を適切に調整することで動作が安定します。
トレーニング動作と呼吸

トレーニング動作における呼吸タイミングも重要な要素です。一般に、筋肉は息を吐く局面で収縮が高まり、息を吸う局面で弛緩しやすくなります。そのため、動作フィニッシュの位置では息をしっかり吐いて筋活動を安定させ、いったん動作を止めてから息を吸い、元の姿勢へ戻る流れを作ることが有効です。
それでは、次の項目では、実際に筆者がジムトレーナーとして運営ジムで選手に指導している本種目の具体的な動作ポイント・フォームについて解説します。
本種目の具体的な動作ポイント・フォーム

背筋群を完全収縮させるためには、胸を張り肩甲骨を寄せきる必要があります。このためには、顎を上げることも重要です。
懸垂の順番と回数設定
ターゲットにする筋繊維に最適な反復回数

筋肉を構成している筋繊維には主に三種類があり、それは、筋繊維TYPE2b(速筋|FG筋)、筋繊維TYPE2a(速筋|FO筋)、筋繊維TYPE1(遅筋|SO筋)で、それぞれの特徴と鍛えるのに適切な反復回数は以下の通りです。
筋繊維TYPE2b(速筋|FG筋)
筋肥大を目的とした筋力トレーニングを実施する場合は、筋肥大しやすい特性を持つ「筋繊維タイプ2b(短時間に爆発的な収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には8~10回前後の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
筋繊維TYPE2a(速筋|FO筋)
体力作りを目的とした筋力トレーニングを実施する場合は、中程度に筋肥大する特性を持つ「筋繊維タイプ2a(持久要素のある瞬発的な収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には12~15回前後の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
筋繊維TYPE1(遅筋|SO筋)
筋肥大を伴わない筋力トレーニングを実施する場合は、ほぼ筋肥大せずに緊密度が向上する特性を持つ「筋繊維タイプ1(持久的に収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には20回以上の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
トレーニング種目を実施する順序
トレーング種目を実施する順序は、コンパウンド種目(複数の筋肉と関節を動かす多関節運動種目)を先に行い、その後でアイソレーション種目(単一の筋肉と関節を動かす単関節運動)を行うのが基本です。また、複数のコンパウンド種目・アイソレーション種目を実施する場合は、それぞれ使用重量の高い種目から先に行います。

懸垂は背筋群の高負荷複合関節種目なので、ローイング系やカール系種目などの前に行ってください。
また、適切な1セットの負荷回数設定は以下の通りです。
○筋肥大トレーニング:6~10回
○通常トレーニング:15回前後
○シェイプアップ筋トレ:20回以上
懸垂の記事一覧
懸垂40種大全
懸垂の女性向きやり方
懸垂の回数設定
懸垂の実施頻度
懸垂ができない場合
自重トレーニングをランクアップ

自重トレーニングの負荷をランクアップさせ、さらに効率的にボディメイクをしていくのに便利なのが、トレーニングチューブ=レジスタンスバンドの併用です。当ジム運営ショップでは、品質確認を行った海外製品を輸入してリーズナブルにご提供しています。
