
ベンチディップスは、上腕三頭筋のなかでも長頭を集中的に鍛えられる自重トレーニングです。そのやり方を動作をまじえて解説します。
ベンチディップスが効果のある筋肉部位
各筋肉の構造や作用および起始停止・支配神経に関しては下記の専門サイトおよび学術文献を参照しています。

Skeletal Muscle: A Brief Review of Structure and Function(PDF)
上腕三頭筋の英語名称・構造・部位詳細・起始停止

読みかた:じょうわんさんとうきん
英語名称:triceps
部位詳細:長頭|外側頭|内側頭
起始:肩甲骨関節下結節|上腕骨後面|上腕骨後面
停止:尺骨肘頭
ベンチディップスは上腕三頭筋に効果の高い種目です。
◆ベンチディップスのやり方と動作ポイント
①足を前に伸ばし、肩甲骨を寄せ、手を身体の後ろ側について構える
②身体を真下に下ろしていく
③上腕が床と平行になるまで身体を下ろしたら、肘を伸ばして身体を押し上げていく
④身体を押し上げたら、肘をしっかりと伸ばして上腕三頭筋を完全収縮させる
◆ワンポイントアドバイス
肩甲骨を寄せずに動作を行うと肩関節に強い負担がかかりますので注意してください。
ベンチディップスの動画とやり方
ベンチディップスは、腕を後ろにして行う腕立て伏せなので、「逆腕立て伏せ」とも呼ばれている種目です。

当サイト執筆者は、運営しているクラブチームジム「FutamiTC」で日常的にトレーニング指導を行っており、本記事の内容も実際の指導現場で得た経験をもとにフォームのポイントやアドバイス点をまとめています。
ジムトレーナーとしての実際の指導ポイント
トレーニング動作と首の連動性

トレーニングフォーム全般において重要となるのは、実施する種目の動作と首の位置関係を適切に保つことです。特に、身体の前側の筋群(大胸筋・三角筋・上腕三頭筋・大腿四頭筋など)を収縮させる局面では、動作フィニッシュで軽く顎を引き、首を安定させることが有効です。
一方で、身体の後ろ側の筋群(広背筋・僧帽筋・上腕二頭筋・脊柱起立筋・ハムストリングスなど)を収縮させる局面では、動作フィニッシュで首の位置をわずかに後方へ誘導し、顎の角度を適切に調整することで動作が安定します。
トレーニング動作と呼吸

トレーニング動作における呼吸タイミングも重要な要素です。一般に、筋肉は息を吐く局面で収縮が高まり、息を吸う局面で弛緩しやすくなります。そのため、動作フィニッシュの位置では息をしっかり吐いて筋活動を安定させ、いったん動作を止めてから息を吸い、元の姿勢へ戻る流れを作ることが有効です。
それでは、次の項目では、実際に筆者がジムトレーナーとして運営ジムで選手に指導している本種目の具体的な動作ポイント・フォームについて解説します。
本種目の具体的な動作ポイント・フォーム

ベンチディップスは、肘を開いて行うと上腕三頭筋短頭、肘を閉じて行うと上腕三頭筋長頭に効果があります。ターゲットにする筋肉部位にあわせてフォームを変えてください。
ベンチディップスの順番と回数設定
ターゲットにする筋繊維に最適な反復回数

筋肉を構成している筋繊維には主に三種類があり、それは、筋繊維TYPE2b(速筋|FG筋)、筋繊維TYPE2a(速筋|FO筋)、筋繊維TYPE1(遅筋|SO筋)で、それぞれの特徴と鍛えるのに適切な反復回数は以下の通りです。
筋繊維TYPE2b(速筋|FG筋)
筋肥大を目的とした筋力トレーニングを実施する場合は、筋肥大しやすい特性を持つ「筋繊維タイプ2b(短時間に爆発的な収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には8~10回前後の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
筋繊維TYPE2a(速筋|FO筋)
体力作りを目的とした筋力トレーニングを実施する場合は、中程度に筋肥大する特性を持つ「筋繊維タイプ2a(持久要素のある瞬発的な収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には12~15回前後の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
筋繊維TYPE1(遅筋|SO筋)
筋肥大を伴わない筋力トレーニングを実施する場合は、ほぼ筋肥大せずに緊密度が向上する特性を持つ「筋繊維タイプ1(持久的に収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には20回以上の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
トレーニング種目を実施する順序
トレーング種目を実施する順序は、コンパウンド種目(複数の筋肉と関節を動かす多関節運動種目)を先に行い、その後でアイソレーション種目(単一の筋肉と関節を動かす単関節運動)を行うのが基本です。また、複数のコンパウンド種目・アイソレーション種目を実施する場合は、それぞれ使用重量の高い種目から先に行います。

ベンチディップスは上腕三頭筋の複合関節種目なので、上腕三頭筋の単関節種目の前に行ってください。
また、適切な1セットの負荷回数設定は以下の通りです。
○筋肥大トレーニング:6~10回
○通常トレーニング:15回前後
○シェイプアップ筋トレ:20回以上
本種目のポイントまとめ
筋肉への効果
ベンチディップスは上腕三頭筋の中でも長頭をしっかりと鍛えられる自重トレーニングです。身体を支える姿勢が安定しやすいため、ディップスより取り組みやすく、初心者の方が自宅でも簡単に行える種目と言えます。
正しいフォームと注意点
身体を真下に下ろすイメージで動作し、肩甲骨を軽く寄せたまま動作します。肩甲骨の寄せが甘かったり、肘が開きすぎると肩関節に負担がかかりますので注意してください。
呼吸と動作
身体を下ろす時に息を吸い、押し上げる時に息を吐きます。トップポジションでは顎を軽く引き、上腕三頭筋が最大収縮する感覚を意識してください。反動を使うと肩や肘に負担が増えるため、ゆっくりコントロールした動作で行う事が大切です。
強度調整とバリエーション
脚を遠くに伸ばすほど負荷が強まり、膝を曲げて近づけるほど負荷が下がります。動作に慣れてきたら、足を台に乗せるとさらに強度を上げることができます。肘の角度を変えることで、上腕三頭筋のどの部位に効かせるかも調整できます。
回数設定
筋肥大を狙う場合は、6〜10回で限界が来るような負荷設定が目安です。一般的なトレーニングなら15回前後、シェイプアップ目的なら20回以上の反復もおすすめです。
次のステップと応用
フォームが安定したら、動作の途中で一時停止を入れたり、ゆっくり下ろすしてネガティブ刺激を入れる方法で負荷を高められます。高強度種目であるディップスへのステップアップ種目としても優れています。
安全性と注意点
肩甲骨を寄せずに下ろすと肩関節に強い負担がかかります。特に柔軟性が低い方は、身体を深く下ろしすぎないように注意してください。
フィジーク選手からのアドバイス

ベンチディップは上腕三頭筋に集中的な負荷をかけられる腕立て伏せバリエーションです。
ベンチディップを二の腕裏側に効果的に効かせるために大切なポイントは「脇を閉めて行う」ことです。これにより、二の腕裏側の筋肉・上腕三頭筋のなかで、体積の大きな内側(長頭)に集中的な負荷をかけることか可能です。
また、椅子(ベンチ)を使わず床に手をついて行うこともでき、このようなやり方を逆腕立て伏せとも呼びます。
しかしながら、効果の高いのは椅子(ベンチ)を使って行うやり方で、これは可動範囲が広がり、上腕三頭筋を最大伸展から最大収縮させることが可能だからです。
ですので、基本的には床ではなく椅子(ベンチ)を使ってトレーニングすることをおすすめします。
アームレスリング選手からのアドバイス

ベンチディップスを実施する上でまず気をつけたいポイントは、肘を開かず体幹に寄せたまま動作を行うことで、これにより負荷を効率的に上腕三頭筋長頭に集中させることができます。上腕三頭筋短頭へ負荷を入れたい場合は、少し肘を開き気味にするとよいですが、あまり開きすぎると肩や肘に余計な負担となりますので気をつけてください。
また、身体を下ろす深さは上腕が床と平行になる程度で十分で、これよりも深く下ろすと肘の関節や靭帯に負担がかかりますので注意してください。また、ボトムポジションで反動を使うのは、肘に悪すぎるので、絶対に避けてください。
なお、足を置く台の高さを高くすることで負荷を増やすことができ、逆に台を低くすることで負荷を減らすことが可能です。
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