筋ポンプ作用|ふくらはぎが第二の心臓と呼ばれる理由と鍛え方

本記事は、生物学の学芸員として身体構造に携わってきた経験と、競技者として実際に身体を使ってきた視点から、筋肉の名称と働きを分かりやすく解説するものです。医療目的ではなく、身体の理解と安全なトレーニングのための教育的な情報をまとめています。

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骨格筋の収縮による静脈圧迫と、それにともない発生する静脈血の循環促進作用である「筋ポンプ作用」について解説するとともに、循環系(心臓・肺・動脈・静脈)の基礎的な構造・血液循環に関する知識をご紹介します。

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動脈と静脈の基礎知識

人体には網目のように血管が走っており、休むことなく循環することで生命活動が維持されています。血液を循環させる血管には「動脈」と「静脈」の二種類があり、それぞれ「動脈:心臓から出る血液が通る管」「静脈:心臓に戻る血液が通る管」と定義されています。

ガス交換(酸素を吸って二酸化炭素を吐く)循環を基準に、その血液循環の順序を説明すると、「肺で酸素を取り込む」→「肺静脈で心臓に送られる」→「動脈で心臓から全身に酸素が送られる」→「各細胞で酸素消費・二酸化炭素発生」→「静脈で二酸化炭素が心臓に戻される」→「肺動脈で肺に送られる」→「肺で二酸化炭素を排出する」、という行程になります。

このほかにも、栄養分の取り込みと全身への分配、老廃物の浄化工程などにも、それぞれ動脈と静脈が血液運搬の流路として使われています。特に立位や座位が長時間続くと、重力の影響により下半身、なかでも下腿部には静脈血がたまりやすく、そのままでは心臓への血液還流が低下しやすい構造になっています。

なお、一般的に考えられている「動脈血=きれいで酸素が豊富」「静脈血=汚れて酸素が少ない」という考え方は誤認であり、あくまで心臓を基準に「出るのが動脈」「入るのが静脈」です。

静脈(じょうみゃく、英: vein、ラテン語:venae)は、毛細血管から発生した静脈血を心臓に送るために使われる血管。毛細血管の吻合により細静脈に至り、静脈となる。ただし、肺静脈のみ、他の静脈とは機能が異なり、動脈血が流れる。

引用:Wikipedia「静脈」

動脈(どうみゃく、英語: artery)とは、動物の血管系において、心臓から押し出される血液の流れる血管のことである。反対に、心臓へ流れ込む血液の流れる血管は静脈と呼ばれる。

引用:Wikipedia「動脈」

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筋ポンプ作用とは

Walking and the Importance of Ankle Mobility for Priming the Calf Muscle Pump for Venous Health

画像:totalityok.com

全身に通っている静脈は、もちろん筋肉の周辺や内部にも走行しています。そして、筋肉周辺や内部の静脈は、筋肉が収縮することにより圧迫を受けます。静脈には逆流を防止するための弁が備わっており、筋収縮により圧迫を受けた静脈は、上図のように決められた方向(心臓方向)に血液を押し出します。特に下腿の深部静脈は筋肉に取り囲まれるように走行しているため、筋収縮のたびに強く圧迫され、筋ポンプ作用が最も顕著に働く部位の一つです。

つまり、血液循環は心臓のポンプ力だけでなく、全身の筋肉の収縮によっても促進されており、これを「筋ポンプ作用」と呼びます。この筋ポンプ作用による血液循環は、人にとって必要不可欠なもので、心臓のポンプだけでは十分な血液循環は確保されません。よい例が「エコノミークラス症候群」に代表されるもので、長時間動かずにいることで下肢の筋ポンプが働かなくなり、重力の影響も相まって静脈還流が大きく低下します。

静脈血が心臓に向かって流れるのは、肺静脈を除き3種類の圧力を受けるからである。すなわち、心臓の収縮、骨格筋ポンプ、呼吸ポンプである。骨格筋ポンプとは下腿の筋の収縮により、静脈が圧搾されるために生ずる圧力を言う。

引用:Wikipedia「静脈」

論文による筋ポンプ作用に関する記載

筋ポンプ作用 とは,四 肢の筋肉の収縮 ・弛緩を. 反復させた時 に,静 脈弁の働きとあいまって静脈. 血を心臓に押 し返す作用をいう。

引用:筋ポンプが血液循環動態に及ぼす影響(西保・池上|1985)

第二の心臓:ふくらはぎ

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心臓からもっとも遠い筋肉部位で、下半身の血液循環のなかでも静脈血を心臓に送るポンプ作用が強いのが下腿三頭筋=ふくらはぎの筋肉で、「第二の心臓」とも呼ばれています。とくに立位のときには心臓より低い位置にあり、重力の影響を強く受けるため、この部位の筋ポンプが静脈還流維持に果たす役割は非常に大きくなります。このため、全身の血液を効率よく循環させるためには、ふくらはぎを意識的に動かすことが重要です。

下腿三頭筋の英語名称・構造・部位詳細・起始停止


読みかた:かたいさんとうきん
英語名称:triceps muscle of calf
部位詳細:腓腹筋外側頭|腓腹筋内側頭|ヒラメ筋
起始:大腿骨外側上顆|大腿骨内側上顆|腓骨頭・脛骨後面
停止:踵骨隆起|踵骨隆起|踵骨隆起

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ふくらはぎの筋ポンプ作用を最大化する鍛え方

ふくらはぎは下腿三頭筋から構成されており、静脈血を心臓へ送り返す強い圧迫力を持つことから、第二の心臓と呼ばれています。筋ポンプ作用を最大化するためには、筋肉を強く収縮させる能力と、足関節の可動域を十分に使えるしなやかさの両方が求められます。また、ふくらはぎの中でも深部に位置するヒラメ筋は遅筋線維が多く、持久的に収縮し続ける働きを担っているため、循環機能との関連が特に深い部位です。

まず、立位で行うカーフレイズは最も基本的で効果的な方法です。重力の影響を直接受ける姿勢で行うため、ふくらはぎにかかる負荷が自然に大きくなり、筋収縮にともなう静脈の圧迫作用も強く発揮されます。かかとをゆっくりと引き上げ、十分に高く持ち上げた位置で一瞬静止し、その後は床につく直前まで丁寧に降ろすことで、筋肉の伸び縮みを最大限に活用できます。この動きを繰り返すことで、腓腹筋を中心とした浅層の筋がよく働き、下肢全体の静脈還流を助ける力が高まります。

次に、座位で行うカーフレイズはヒラメ筋に焦点を当てた方法です。膝を曲げた状態では腓腹筋の関与が弱まり、深層のヒラメ筋が優位になります。ヒラメ筋は深部静脈を直接包み込むように位置しているため、この筋が収縮するたびに深部静脈が強く圧迫され、静脈血の押し出しが効率よく起こります。とくに長時間の座位が続く生活習慣では、このヒラメ筋の活性が低下しやすく、静脈還流が停滞しがちです。座位カーフレイズを反復して行うことは、下肢の循環機能を保つために非常に有効です。

さらに、足首の背屈と底屈の可動域を確保するためのストレッチも重要です。足関節の動きが硬くなると、ふくらはぎの筋肉が十分に収縮しきれなくなり、筋ポンプ作用が低下してしまいます。日常的にアキレス腱付近のストレッチを行い、足関節が滑らかに動く状態を保つことで、ふくらはぎ全体の収縮効率が高まり、静脈還流を助ける力が向上します。

このように、ふくらはぎの筋ポンプ作用を最大化するためには、立位での反復収縮、座位での深層筋の活性化、そして足関節の柔軟性の三つが基盤になります。いずれも特別な器具を必要とせず、自宅でも職場でも継続しやすいため、日常の一部として取り入れることで全身の循環改善に大きな効果を発揮します。

日常生活の中で自然に筋ポンプを働かせる方法

筋ポンプ作用は、日常の小さな動きを積み重ねることで確実に活性化できます。特別な時間を設けなくても、普段の生活の中にふくらはぎを使う機会を増やすことで、静脈還流が改善し、全身の循環状態が整っていきます。

歩く動作そのものが筋ポンプ作用を高める基本になります。歩行では、かかと接地からつま先離地までの一連の動作の中でふくらはぎが自然に伸び縮みし、この反復収縮が静脈を圧迫して血液を押し戻します。一日にまとまった時間を取れない場合でも、短時間の歩行を何度か分けて行うことで十分に効果があります。

また、座位が長く続く場合は、足首をゆっくり背屈と底屈させるだけでも筋ポンプ作用が働きます。つま先を上げて下げるという動きを繰り返すことで、ヒラメ筋を中心とした深部の筋が収縮し、深部静脈の血流が改善します。デスクワークや移動中の車内や飛行機でも行えるため、ふくらはぎの循環低下を防ぐ基本的な方法になります。

階段の昇降を日常に取り入れることも効果的です。階段では立位カーフレイズと同様の動作が繰り返され、ふくらはぎの収縮が強調されます。エレベーターやエスカレーターを使う習慣が多い方は、短い距離だけでも階段を使用することで循環機能は徐々に改善していきます。

さらに、足関節の柔軟性を保つための日常的なストレッチも重要です。足首が硬くなると、ふくらはぎの筋肉が十分に伸び縮みできなくなり、筋ポンプ作用が低下してしまいます。入浴後などの体が温まった時間にアキレス腱周囲の伸長を行うことで、筋の収縮効率が向上します。

このように、歩行、足首の背屈と底屈、階段昇降、柔軟性の維持といった基本的な動作を生活に自然に取り込むことで、ふくらはぎの筋ポンプ作用は確実に高まります。特別な器具や高度な技術を必要とせず、日常の積み重ねによって全身の循環状態が改善していく点が大きな特徴です。

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