この記事は30年以上にわたり博物館に務める生物学の学芸員が執筆した専門記事です。

有袋類一覧種類図鑑|ウォンバット・コアラ・カンガルーなど現生種からフクロオオカミなど絶滅種まで解説

オーストラリアと南米大陸の一部にしか分布しない有袋類について、生物学学芸員の筆者がフリー画像をまじえながら解説していきます。

有袋類は哺乳類のなかでも進化段階として古い系統のグループで、そのほとんどがオーストラリア大陸とその周辺にのみ生息しています。

有袋類は、ほとんどの進化した哺乳類が属する有胎盤類と違い胎盤を持っておらず、超未熟児の状態で新生児を生み、育児嚢と呼ばれる袋の中で育てることが特徴です。

このように有袋類は胎盤を持たない生態(進化段階として古い)ため、進化した有胎盤類との競合では負けて滅ぼされてしまいます。

しかしながら、オーストラリア大陸が比較的早い段階で他の大陸と離れたことにより、ユーラシア大陸で進化した有胎盤類は、その分布をオーストラリアまで広げることが間に合わず、オーストラリア大陸(および南米大陸の一部)だけが有袋類の楽園になりました。

生態系には「ニッチ」と呼ばれる生態的地位があり、有袋類しかいないオーストラリア大陸では全ての哺乳類ニッチを有袋類が占め、独自の分化・進化を遂げ、結果として草食性の有袋類から肉食性の有袋類までが発生し、独自の生態ピラミッドが作り上げられました。

そして、それぞれの生態的地位の有袋類は、有胎盤類の同じ生態的地位の動物と似通った外見に進化しました。不思議な事ですが、これを収斂進化(しゅうれんしんか)と言います。

それでは、次の項目からは代表的な有袋類(現生)と残念ながら絶滅してしまった有袋類をご紹介していきます。

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コアラ


学名:Phascolarctos cinereus

コアラは有袋類のなかでも最も知名度が高い種類の一つで、その可愛らしい外見から高い人気を誇っています。

オーストラリア大陸のクイーンズランド州南東部、ニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州、南オーストラリア州南東部に分布しています。

食性は草食性でユーカリやアカシア、ティーツリーの葉や芽を食べます。基本的に樹上生活をしており鋭い爪で木につかまっています。動きは非常にゆっくりで筋力も高くはありませんが、この鋭い爪のおかげで樹上生活者として生き残ることができました。

有胎盤類で近いニッチにいるのが、ナマケモノです。

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カンガルー科


学名:Macropodidae

カンガルー科には大型のオオカンガルーから小型のワラビーまで、数多くの種類がいます。食性は草食性で、主に木の葉を食べています。

脚力が非常に強く、その太い尾でバランスをとりながら跳ねるようにして走ります。

有胎盤類で近いニッチにいるのが、シカの仲間です。

ウォンバット


学名:Vombatus ursinus

ウォンバットは分類的にはコアラに非常に近く、地上に降りたコアラのような存在です。コアラと違い活発で、巣穴を掘ったり、時速40kmほどのスピードで走ることもできます。夜行性で、昼間は巣穴のなかで過ごします。

食性は草食性で、イネ科の草や樹皮、低木の根、キノコなどを食べます。

有胎盤類で近いニッチにいるのが、アナウサギです。

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タスマニアデビル


学名:Sarcophilus harrisii

タスマニアデビルは現存する有袋類の中で最大の肉食獣で、タスマニア州に分布しています。

夜行性で、昼間は穴ぐらなどで過ごし、夜になると小型のワラビーや哺乳類、鳥類、昆虫類等を捕食します。

有胎盤類で近いニッチにいるのが、アナグマです。

フクロギツネ


学名:Trichosurus vulpecula

フクロギツネはクイーンズランド州北部アサートン高原などに生息する雑食性の有袋類で、木の葉や果物、昆虫類、鳥やその卵等を食べます。

基本的に樹上性かつ夜行性で、昼間は樹洞などで過ごします。また、人間の生息域と隣接する地域では、屋根裏などに忍び込むことも少なくありません。

有胎盤類で近いニッチにいるのが、イタチです。

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フクロモモンガ


学名:Petaurus breviceps

有胎盤類のモモンガをそのまま有袋類にしたような姿と生態を持つのがフクロモモンガです。本物のモモンガと同様に前肢から後肢にかけて皮膜を持ち、これを使ってグライダーのように樹から樹へ飛び移ります。完全な樹上性で、地上に降りることはほぼありません。

季節ごとに適したものを食べる雑食性ですが、主食は花粉で、このほかにトカゲ、小鳥、花の蜜、アカシアの種子、鳥の卵、菌類、果実など様々なものを食べています。

フクロアリクイ


学名:Myrmecobius fasciatus

フクロアリクイは、収斂進化の代表例とも言える有袋類で、コアリクイにそっくりな外見を持ち、その主食もシロアリです。

西オーストラリア州南西部の固有種で、別名ナンバットとも呼ばれます。

有袋類ですが、育児嚢がないため、幼獣は母親の乳頭に吸いついて育つとい変わった子育てをすることも知られています。

フクロモグラ


学名:Notoryctes typhlops

驚くことに、有袋類にはモグラとそっくりに進化したフクロモグラという種類もいます。本種も収斂進化の代表例として取り上げられることが多く、有胎盤類で近いニッチにいるのが、モグラ(特にキンモグラ)です。

地中に穴を掘って暮らしており、モグラ同様、地上に出ることはほとんどありません。土中の昆虫の幼虫などを食べています。

フクロオオカミ(絶滅種)


学名:Thylacinus cynocephalus

フクロオオカミは1936年に絶滅した肉食性の有袋類で、入植したヨーロッパ人に害獣として駆除されたり、入植者が持ち込んだ犬(野生化したディンゴ)との競合に敗れて絶滅にいたりました。

有袋類でありながら、有胎盤類のオオカミにあたるニッチを占め、収斂進化の代表例としてしばしば取り上げられます。

ディプロトドン(絶滅種)

ディプロトドン (Diprotodon) は約160万~約4万6千年前にかけてオーストラリア大陸南東部に生息していた大型の有袋類で、分類的にはウォンバットに近く草食性であったことから「有袋類のサイ」とも呼ばれています。

体高は約2m、体重は約3トンと非常に巨大な有袋類でした。

ティラコレオ(絶滅種)

ティラコレオ(Thylacoleonidae)は約160万~約5万年前にかけてオーストラリア大陸に生息していた大型の肉食有袋類で、体重は100kgとヒョウなみの体格だったと推測されています。

このCGは、前述のディプロトドンを襲っている姿を再現したもので、ニッチとしてはハイエナのような立場であったと考えられています。

ティラコスミルス(絶滅種)

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ティラコスミルス(Thylacosmilus)は、約700万年前~300万年前にかけて生息していた最大の肉食有袋類で、体重は最大で120kgと小型のライオンやトラに匹敵したと考えられています。

長大な牙を持ち、サーベルタイガーのようなニッチを占めていたと考えられています。


上がティラコスミルスの頭骨化石、下がサーベルタイガー(スミロドン)の頭骨化石です。

収斂進化(しゅうれんしんか)の不思議を垣間見れます。

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