この記事は30年以上にわたり博物館に務める生物学の学芸員が執筆した専門記事です。なお、生物学記事のオリジナル画像は、教育目的での使用に限り、参照リンク付きでの転載を許可しています。

カンブリア紀の生物|生命の爆発的進化が起こった古生代の始まりを学芸員が解説

今から約5億4100万年前に始まったカンブリア紀は、それまでの穏やかな海を一変させた生命の爆発的進化の舞台です。この時期、動物たちは捕食と防衛のために目や骨格、そして強力な筋肉を獲得しました。現代に繋がる主要な動物のグループがこの短期間に一斉に出現した現象は、生命史上最大のミステリーの一つとされています。

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カンブリア紀の地球の気候

カンブリア紀の地球は、現在よりもはるかに温暖で、活発な火山活動により大気中の二酸化炭素濃度が高かったと推定されています。超大陸パノティアが分裂し、陸地の多くが赤道付近に位置していたため、極地方に氷床は存在せず、海水温も非常に高かったのが特徴です。この温暖な気候と、浅瀬の海が広がった環境が、生命の爆発的な多様化を支える土壌となりました。酸素濃度も上昇し、高代謝な生物の生存を可能にしました。

カンブリア紀の代表的な生物

アノマロカリス(Anomalocaris)

当時の生態系で頂点に位置していた最大級の捕食者です。頭部にある一対の大きな触手で獲物を捕らえ、円盤状の口器で咀嚼していました。左右に並んだヒレを波打たせて泳ぐ高い機動力と、優れた複眼による視覚能力を兼ね備えており、カンブリア紀の海における絶対的な王者として君臨していました。

オパビニア(Opabinia)

5つの目と、頭部から長く伸びたノズル状の器官が特徴的な節足動物の近縁種です。ノズルの先端にはハサミのような構造があり、泥の中の獲物を掴んで口まで運んでいたと考えられています。そのあまりに奇妙な姿は、発見当初、古生物学者たちを困惑させ、既存の分類体系に収まらない異形の生物として注目を集めました。

ハルキゲニア(Hallucigenia)

細長い胴体の背側に鋭い棘を並べ、腹側には細い脚を持つ歩行生物です。初期の研究では上下や前後が逆さまに復元されるほど複雑な構造をしていましたが、現在はカギムシに近い有爪動物の仲間とされています。捕食者から身を守るための棘の進化は、当時の生存競争が極めて激しかったことを明確に物語っています。

ウィワクシア(Wiwaxia)

全身を鱗のような小さな骨片で覆い、背中に2列の長い棘を直立させた軟体動物に近い生物です。海底をゆっくりと這いながら、微細な有機物を食べて生活していたと推測されています。その強固な装甲は、アノマロカリスのような大型捕食者の攻撃から身を守るために特化した、カンブリア紀流の防御形態と言えます。

ピカイア(Pikaia)

我々脊椎動物の遠い祖先に極めて近いとされる、原始的な脊索動物です。ナメクジウオに似た左右に扁平な体を持ち、うねるように泳いでいました。体の中心を貫く脊索は、後に背骨へと進化する重要な構造であり、この小さな生物の登場が、数億年後の巨大な哺乳類や人類の誕生へと繋がる壮大な物語の起点となりました。

マルレラ(Marrella)

バージス頁岩動物群の中で最も発見数が多い、小型の節足動物です。頭部から後方へ伸びる2対の大きな角のような突起が特徴で、その繊細な姿からレースの蟹とも呼ばれます。脚には呼吸のための鰓のような構造があり、海底付近を泳ぎながら生活していたと考えられ、当時の海の多様性を象徴する存在です。

エルドニア(Eldonia)

クラゲのような円盤状の軟体部を持つ、正体不明の浮遊生物です。化石からは放射状の構造や消化管が確認されており、ナマコに近い棘皮動物の一種、あるいは独自のグループに属すると議論されています。当時の海中を漂いながら、触手を用いてプランクトンを摂取していたと考えられ、謎多きカンブリア紀の象徴です。

ミロクンミンギア(Mylokunmingia)

中国の澄江で見つかった、世界最古級の魚類とされる脊椎動物です。ピカイアよりも進化しており、明確な頭部、鰓、そしてジグザグ状の筋肉(マイオメア)を持っていました。内骨格と高度な運動能力の萌芽が見られるこの生物は、生命がより速く、より大きく進化するための基礎を築いた極めて重要な種です。

オレノイデス(Olenoides)

カンブリア紀を代表する三葉虫の一種で、硬い外骨格と鋭い棘、そして長い触角を持っていました。他の三葉虫と比較して脚の構造が頑丈であり、海底を活発に移動して獲物を探す肉食性、あるいは死肉食性の生活を送っていたと推測されます。節足動物の完成された形態の一つとして、当時の海で繁栄を極めました。

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