
古生代の海には、現生のサメとは大きく異なる形態をもつ軟骨魚類が数多く生息していました。歯列が螺旋状に巻くもの、背鰭が台座状に変形したもの、頭部に長大なスパインを備えるものなど、その形態は機能進化や性的二形を理解する上で重要な資料となります。本記事では特殊な形状で知られる代表的な絶滅軟骨魚類を、生物学の学芸員の視点から解説します。
ヘリコプリオン(Helicoprion)

ペルム紀の外洋に生息したユーゲノドント類で、下顎内部に巻き込まれた円鋸状の歯列をもつことで知られます。歯は脱落せず連続的に前方へ押し出され、顎の閉鎖運動に伴って後方へ回転しながら獲物を切断して口腔奥へ送る構造でした。CT解析によって歯列の位置が下顎内に収まることが明らかとなり、従来の復元を大きく修正した例として古生物学史上重要な種です。

ステタカントゥス(Stethacanthus)

デボン紀後期から石炭紀にかけて生息した初期のサメ類で、雄の第一背鰭が台座状に拡大し、その表面が微小歯で覆われる特異な構造をもちます。この構造は遊泳機能ではなく、視覚的ディスプレイや交尾行動に関与したと考えられています。体長は1〜2mほどで、流線形の体と異歯性の歯を備えた中型捕食者でした。

エデスタス(Edestus)

石炭紀後期の海に生息したユーゲノドント類で、上下顎から前方へ突き出す鎌状の歯列を備えます。歯は後方に押し出されることなく前縁へ追加され続けるため、鋸歯状の刃が一直線に並ぶ構造を形成しました。通常の咬合ではなく頭部を振り下ろす動作で獲物を切断したとする解釈が有力で、切断特化型捕食者として位置づけられます。

ファルカトゥス(Falcatus)

石炭紀前期のベアガルチ化石群で知られる小型のシンモリウム類で、全長は30cm前後と推定されます。雄は後頭部から前方へ湾曲する長大な頭部スパイン(トゲ角)をもち、雌には見られない明瞭な性的二形を示します。大きな眼と小型の歯を備え、小型無脊椎動物を捕食していたと考えられ、初期板鰓類の繁殖行動を考察する上で重要な資料です。

スリナコドゥス(Thrinacodus)

同じくベアガルチ化石群から産出するシンモリウム類で、細長い体と極端に大きな眼をもつことが特徴です。低光量環境への適応を示す形態と解釈され、比較的深い水深または夜間活動性をもっていた可能性があります。小型の多咬頭歯を備え、遊泳能力よりも機動性と捕食精度を重視した生活様式だったと考えられます。

古代生物図鑑





