この記事は30年以上にわたり博物館に務める生物学の学芸員が執筆した専門記事です。なお、生物学記事のオリジナル画像は、教育目的での使用に限り、参照リンク付きでの転載を許可しています。

石炭紀の生物|巨大昆虫と広大な森林の時代を博物館学芸員が解説

約3億5890万年前から2億9890万年前まで続いた石炭紀。 この時代の名前は、現代の私たちが火力発電や製鉄に利用している「石炭」の多くが、この時期の植物遺体から作られたことに由来します。

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地球史上、最も酸素濃度が高かったとされるこの時代(現代の約21%に対し、当時は約35%)。その高い酸素濃度は、生物たちに驚くべき進化をもたらしました。陸上には、現代では考えられないほど巨大な節足動物が蠢き、脊椎動物は完全に水辺を離れるための「卵の革命」を起こしました。

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石炭紀の地球:緑の迷宮と酸素の魔法

石炭紀は、高温多湿な熱帯気候が続き、地球の大部分が巨大な湿地帯の森林に覆われていました。リンボク(鱗木)やフウインボク(封印木)といった、高さ30メートルを超える巨大なシダ植物が密生し、それらが枯れて積み重なったものが、分解されずに膨大な石炭層となりました。

また、高い酸素濃度は気管で呼吸する昆虫や節足動物の大型化を可能にし、陸上の生態系は一つの頂点に達しました。

石炭紀を代表する5種の生物

高い酸素濃度と豊かな森林が生んだ、個性的で巨大な5種の生物を紹介します。

メガネウラ (Meganeura)

化石資料と学術研究に基づいて復元したメガネウラ(Meganeura monyi)。石炭紀に生息した史上最大級の昆虫の生態再現イメージ

石炭紀の空の王者といえば、この巨大なトンボに似た昆虫です。

特徴: 広げた羽の端から端まで(翼開長)が約70センチメートルに達しました。現代のトンボとは異なり、高い酸素濃度を活かしてこれほどの巨体を維持。鋭い顎と優れた視力で、他の昆虫や小さな両生類を空から襲っていたと考えられています。

アースロプレウラ (Arthropleura)

化石資料と学術研究に基づいて復元したアースロプレウラ(Arthropleura)。古生代石炭紀の森林を歩く史上最大級の節足動物の生態イメージ

地球史上最大の陸生節足動物であり、巨大なヤスデのような姿をしています。

特徴: 体長は最大で2.5メートル以上、幅も50センチメートルほどありました。現代の多足類とは桁違いのサイズですが、食性は意外にもおとなしく、森林の落ち葉や腐植物を食べていたという説が有力です。

ヒロノムス (Hylonomus)

爬虫類の先駆者であり、生命の歴史において極めて重要な役割を果たしました。

特徴: 体長は約20センチメートル。トカゲのような姿をしていますが、最大の革命は「羊膜卵(ようまくらん)」という殻付きの卵を産めるようになったことです。これにより、脊椎動物は繁殖のために水辺へ戻る必要がなくなり、乾燥した内陸部への進出が可能となりました。

エダフォサウルス (Edaphosaurus)

石炭紀後期からペルム紀にかけて繁栄した、単弓類(哺乳類の遠い親戚にあたるグループ)の一種です。

特徴: 背中に大きな「帆」を持っているのが最大の特徴です。この帆は体温調節のために使われていたと考えられています。初期の大型草食動物として、石炭紀の豊かな森林の植物を食べて生活していました。

アカントステガ (Acanthostega)

デボン紀から続く「四肢動物」の進化を象徴する生物です。

特徴: 8本の指を持つ四肢を持っていましたが、まだ重い体を支えて陸上を歩くのには適しておらず、主に水中や湿地で生活していました。魚類から両生類へと完全に移行する過程の、生々しい進化の足跡を私たちに見せてくれます。

繁栄の終わり:森林崩壊と乾燥化

石炭紀の末期、地球の気候は徐々に乾燥化へと向かい、広大だった湿地帯の森林は分断されていきました(石炭紀森林崩壊)。

この環境変化は、巨大昆虫たちには厳しいものでしたが、乾燥に強い「羊膜」を持つ爬虫類や、後の哺乳類へと繋がる単弓類にとっては、新たな多様化のチャンスとなりました。石炭紀は、私たちが現在知る陸上生態系の「プロトタイプ」が完成した、エネルギッシュな時代だったのです。

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