
ブルガリアの五輪体操チームが発案したことから命名されたブルガリアンスクワットは、非常に強度の高い下半身トレーニングとして有名です。そのやり方を動画をまじえて解説します。
ブルガリアンスクワットが効果のある筋肉部位
各筋肉の構造や作用および起始停止・支配神経に関しては下記の専門サイトおよび学術文献を参照しています。

Skeletal Muscle: A Brief Review of Structure and Function(PDF)
ハムストリングスの英語名称・構造・部位詳細・起始停止

読みかた:はむすとりんぐす
英語名称:hamstrings
部位詳細:大腿二頭筋長頭|大腿二頭筋短頭|半膜様筋|半腱様筋
起始:坐骨結節|大腿骨粗線外側唇・外側筋間中隔|坐骨結節|坐骨結節内側面
停止:腓骨頭|腓骨頭|脛骨内側顆・斜膝窩靭帯|脛骨粗面内側
ハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)
ブルガリアンスクワットは、太もも裏側の膝関節を屈曲させる作用のあるハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)に対して大きな効果があります。
特に、意識を後ろ足に持ち、後ろ足主働で動作をすると刺激がハムストリングスに集中します。
臀筋群の英語名称・構造・部位詳細・起始停止

読みかた:でんきんぐん
英語名称:gluteus muscles
部位詳細:大臀筋|中臀筋|小臀筋
起始:腸骨稜・腸骨翼|腸骨翼殿筋面・腸骨稜|腸骨翼
停止:大腿筋膜外側部・大腿骨粗面|大腿骨大転子尖端|大腿骨大転子前面
大臀筋・中臀筋・小臀筋
また、ブルガリアンスクワットは股関節を伸展させる作用のある臀筋群(大臀筋・中臀筋・小臀筋)に対しても効果があります。
特に、立ち上がった時に両膝を伸ばし、かかとを浮かせて臀筋群を最大収縮させる意識で行うと効果が倍増します。
大腿四頭筋の英語名称・構造・部位詳細・起始停止

読みかた:だいたいしとうきん
英語名称:quadriceps
部位詳細:大腿直筋|外側広筋|内側広筋|中間広筋
起始:腸骨下前腸骨棘・寛骨臼上縁|大腿骨大転子外側面・転子間線・殿筋粗面|大腿骨粗線内側唇|大腿骨前外側面
停止:膝蓋骨上縁・脛骨粗面|膝蓋骨上外側縁・頸骨粗面|膝蓋骨上内側縁・脛骨結節|膝蓋骨・頸骨粗面
大腿四頭筋
また、前足に関しては片足でスクワットをする状態になるため、かなり高い負荷が大腿四頭筋に対しても加わります。
下腿三頭筋・腸腰筋群


さらにブルガリアンスクワットは、二次的にふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋や、股関節を屈曲させる作用のある腸腰筋群にも効果があります。
これらのことから、ブルガリアンスクワットは自重スクワットに勝るとも劣らない、非常に効果の高い下半身自重トレーニングと言えます。
ブルガリアンスクワットの動画とやり方
こちらは、基本となる自重のみでのブルガリアンスクワットの模範的な動画です。その動作のポイントは以下の通りです。
○膝がつま先より前に出ないようにする
○胸を張り視線はやや上を見る
○斜め後ろにしゃがみ後ろ足主働で立つ
○しゃがんでから息を吸い立ちながら息を吐く

◆ブルガリアンスクワットのやり方と動作ポイント
①片足を前に出し、片足を後ろの台などに乗せて構える
②前にした足の膝がつま先よりも前に出ないように、斜め後ろにしゃがんでいく
③前にした足の太ももが床と平行になるまでしゃがんだら、反動を使わずに同じ軌道で立ち上がる
④所定回数を行った後、足の前後をかえて再び同様の動作を行う
◆ワンポイントアドバイス
構えにくいほうの足の置き方から先にセットを行なったほうが、やりやすくなります。
また、さらに負荷が欲しい場合は、この動画のようにウエイトやダンベルを持って行ってください。

当サイト執筆者は、運営しているクラブチームジム「FutamiTC」で日常的にトレーニング指導を行っており、本記事の内容も実際の指導現場で得た経験をもとにフォームのポイントやアドバイス点をまとめています。
ジムトレーナーとしての実際の指導ポイント
トレーニング動作と首の連動性

トレーニングフォーム全般において重要となるのは、実施する種目の動作と首の位置関係を適切に保つことです。特に、身体の前側の筋群(大胸筋・三角筋・上腕三頭筋・大腿四頭筋など)を収縮させる局面では、動作フィニッシュで軽く顎を引き、首を安定させることが有効です。
一方で、身体の後ろ側の筋群(広背筋・僧帽筋・上腕二頭筋・脊柱起立筋・ハムストリングスなど)を収縮させる局面では、動作フィニッシュで首の位置をわずかに後方へ誘導し、顎の角度を適切に調整することで動作が安定します。
トレーニング動作と呼吸

トレーニング動作における呼吸タイミングも重要な要素です。一般に、筋肉は息を吐く局面で収縮が高まり、息を吸う局面で弛緩しやすくなります。そのため、動作フィニッシュの位置では息をしっかり吐いて筋活動を安定させ、いったん動作を止めてから息を吸い、元の姿勢へ戻る流れを作ることが有効です。
それでは、次の項目では、実際に筆者がジムトレーナーとして運営ジムで選手に指導している本種目の具体的な動作ポイント・フォームについて解説します。
本種目の具体的な動作ポイント・フォーム

ブルガリアンスクワットを行うときは、構えにくいほう(利き足が後ろ)から始めてください。先にやりやすい構えで疲れてしまうと、構えにくいほうでは最後までセットを行うことが難しくなります。
また、ハムストリングスにしっかりと効かせたい場合は、後ろにした脚を主体に動作をしてください。
ブルガリアンスクワットの順番と回数設定
ターゲットにする筋繊維に最適な反復回数

筋肉を構成している筋繊維には主に三種類があり、それは、筋繊維TYPE2b(速筋|FG筋)、筋繊維TYPE2a(速筋|FO筋)、筋繊維TYPE1(遅筋|SO筋)で、それぞれの特徴と鍛えるのに適切な反復回数は以下の通りです。
筋繊維TYPE2b(速筋|FG筋)
筋肥大を目的とした筋力トレーニングを実施する場合は、筋肥大しやすい特性を持つ「筋繊維タイプ2b(短時間に爆発的な収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には8~10回前後の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
筋繊維TYPE2a(速筋|FO筋)
体力作りを目的とした筋力トレーニングを実施する場合は、中程度に筋肥大する特性を持つ「筋繊維タイプ2a(持久要素のある瞬発的な収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には12~15回前後の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
筋繊維TYPE1(遅筋|SO筋)
筋肥大を伴わない筋力トレーニングを実施する場合は、ほぼ筋肥大せずに緊密度が向上する特性を持つ「筋繊維タイプ1(持久的に収縮をする筋繊維)」を対象として行います。具体的には20回以上の反復動作で限界がくる負荷設定で筋力トレーニングを実施します。
トレーニング種目を実施する順序
トレーング種目を実施する順序は、コンパウンド種目(複数の筋肉と関節を動かす多関節運動種目)を先に行い、その後でアイソレーション種目(単一の筋肉と関節を動かす単関節運動)を行うのが基本です。また、複数のコンパウンド種目・アイソレーション種目を実施する場合は、それぞれ使用重量の高い種目から先に行います。

ブルガリアンスクワットは下半身の複合関節種目なので、大腿四頭筋やハムストリングスの単関節種目の前に行うようにしてください。
また、適切な1セットの負荷回数設定は以下の通りです。
○筋肥大トレーニング:6~10回
○通常トレーニング:15回前後
○シェイプアップ筋トレ:20回以上
本種目のポイントまとめ
筋肉への効果
ブルガリアンスクワットは後脚側にはハムストリングスと臀筋群を主働とした股関節伸展運動として機能し、前脚側には大腿四頭筋への高負荷がかかるため下半身の三大筋群を同時に強化できる優れた多関節種目(コンパウンド種目)です。また、体幹部の固定力が要求されるため、腹筋群や脊柱起立筋にも負荷が入ります。やり方によって前脚と後脚にかかる負荷の比率を調整できるため、目的別の下半身全体の筋力向上に効果的です。
正しいフォームと注意点
前脚の膝がつま先より前に出ないように、やや後方へしゃがみ込むことを徹底するとともに、体幹の直立と骨盤の安定を意識して実施してください。なお、後脚の爪先を置く高さが高すぎると、骨盤が前傾し腰椎に過剰な負荷がかかるため、足は膝下程度の高さに置いて実施してください。
呼吸と動作のテンポ
しゃがみ込んでから息を吸い、立ち上がりながら息を吐くことで確実に下半身の筋肉群を収縮させられます。動作テンポの目安としては、約二秒をかけてゆっくりとしゃがみ、そこから一秒ほど静止し、二秒でゆっくりと立ち上がるようにします。反動は使わず、常に動作をコントロールして実施してください。
強度調整
重心を後方に置くことでハムストリングスと臀筋群への負荷が強まり、前脚のかかと側に体重を乗せることで大腿四頭筋の負荷が高まります。負荷を高める際はダンベルを保持したり、さらに動作テンポを遅くしたり、ボトムで静止を追加するなどして無理のない範囲で段階的に行ってください。
回数設定
筋肥大を狙う場合は片脚8~10回程度で限界が来る負荷設定(または動作スピード)で行います。筋力と持久力を高めたい場合は12~15回を目安に反復します。
安全性と注意点
前脚の膝が内側へ倒れると膝関節に強いストレスがかかりますので、つま先と膝の向きを必ず一致させて行ってください。また、骨盤が左右に傾くと腰椎が回旋してハムストリングスが正しく収縮できないため、骨盤の水平維持(腰を水平に保つイメージ)を意識します。
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